『リクルート・カレッジ・マネジメント 220 / Jan - Feb. 2020 号』の中の記事「学生はレクチャーから何も学んでいないのか? アメリカ高等教育事情 The Chronicle of Higher Education から」が面白かったので、その記事の書いた人の本 The Missing Course を購入して読みました。
カリッジ・マネジメントの記事の面白かったところは、レクチャー(講義)で、教員が「知能は育てることができると信じている場合」(成長マインドセット)ほうが、「知能は普遍でものであると考えている場合」(不変マインドセット)よりも、学生は良い成績をおさめる傾向があるという研究成果でした。このことは、大学の教員だけの話ではなく、小・中・高の学校の教員にも当てはまると思います。学生や生徒の学ぶ側のマインドセットはよく聞くのですが、教える側のマインドセットも大切であるという指摘は、私はあまり聞きません。しかし、主体的な教育者(proactive educator)の観点から言えば、その資質として、この「成長マインドセット」を持つことは必要条件になると思われます。(ところで、成長マインドセットは、英語では growth mindset、不変マインドセットは fixed mindset のことだと思うのですが、複数のマインドセットの日本語訳が出ています。英語では、ほとんど場合この2語のことです。)
The Missing Course を読んで感心した点は、「教えること」(teaching)を次のように表現していることです。
"Teaching - the practice of helping others learn - ...." (p.8)
「教えること、すなわち、他者が学ぶことを手助けするという行い…」(拙訳)
この表現は、私にとって、非常に示唆に富むものでした。というのも、教えることは、教師から生徒への知識の伝授・伝達でなくとも良い、と解釈できるからです。別に、教師は生徒に教え込む必要ななく、生徒が学ぶのお手伝いする役割を、この表現は表しています。英語では、the sage on the stage (教壇での聖人)よりむしろ the guide on the side (生徒に寄り添うガイド)の意味合いを伝えています。
この表現を前提に、次に注目した表現 'teach without speaking' 「話さずに教える」(p.52) を考えると、ひょとしたら、これが「教えない授業」の英語のことかもしれないと思いました。
授業のことなので、他者を生徒に代えて、二つの英語表現を合わせると、the practice of helping students learn, without speaking になります。つまり、「(教師は)話さずに、生徒が学ぶことを手助けする行い」が、「教えない授業」を意味するのではないかと考えました。
英語表現をヒントに、日本語の表現や概念を考えると、より明確に理解できることがあります。
(参考文献)
『リクルート・カレッジ・マネジメント 220 / Jan - Feb. 2020 号』(p.55 - p.57)
David Gooblar (2019). The Missing Course: Everything They Never Taught you about College Teaching Harvard University Press