新たなデジタル・ディバイド(Digital Divide)-MIT Technology Reviewから-

 MIT Technology Review (Volume 123 Number 1 Jan/Feb 2020) の記事を読んでいると興味深い意見が書かれていたので、紹介します。

 

'Much attention has been focused on the so-called digital divide - the relative lack of access that lower-income Americans have to technology and the internet. That's legitimate: Kevin and students like him need to learn how to use computers to access information online, and, more generally, to navigate the modern world.  But let's not create a digital divide of the opposite kind by outsourcing their education to devices that purport to build "skills" while their peers in richer neighborhoods enjoy the benefits of being taught by human beings.' (p.23)

「多くの注意・関心が、いわゆる、デジタル・ディバイド(格差)に向けられてきました。デジタル・ディバイド(格差)とは、家計の収入が低い米国人が、そうでない人々と比べ、テクノロジーやインターネットにアクセスできない状況のことです。そのような状況では、ケビン(訳者注:記事に登場する生徒)や彼のような生徒たちがネット上の情報にアクセスするためや、もっと一般的には、現代社会を生きて行くために、コンピューターの使い方を学ぶ必要があります。それは、至極もっともなことです。しかしながら、気をつけなければならないことは、収入が高い近隣地区の生徒たちは人に教えられるという恩恵を享受する一方で、収入の低い生徒たちの教育は「スキル(能力)」の獲得を標榜するデジタル機器に丸投げすることで、別のデジタル・ディバイド(格差)を生みださないことです。」(拙訳)

 

 この箇所は、記事の最後の締めくくりとして書かれているものです。記事は、アメリカの教育機関でPCなどのデジタル機器の使用が拡大しているが、あまり効果が上がっていない、特に、社会経済的に恵まれていない生徒にはそうである、と報告しています。

 

 その理由は、学習の動機づけが弱い、デジタル機器の多機能性が学習に集中することを妨げる(例えば、算数の問題を解いている最中にお絵かきソフトで別のことをする)、基礎的な読解力や知識が脆弱なので学習ソフトが効果ではない、などです。さらに、デジタル機器はあくまでも道具であるので、教師などの人の介在が必要となります。

 

 人があまり介在しない教室では、動機付けや注意散漫、学習ソフト使用の躓きなどの障壁を越えることが困難になるので、デジタル機器使用が効果的でなくなります。引用箇所の最後の文にあるように、デジタル機器に教育を丸投げすることで、新たな格差が生み出される可能性があります。今後、日本でも公立小学校、中学校に国家予算を投じ、一人一台のPC環境が整備されていきますが、アメリカの教育状況は、全てとは言わないまでも、大変参考になります。

 


(参考文献)

Natlie Wexler(2020). No computer left behind(p.18- p.23) MIT Technology Review Volume 123 Number 1 Jan/Feb 2020