学びに向かう力-『社会情動的スキル』-

 タイトルの「学びに向かう力」は、OECDが2015年に発行した報告書 Skills for Social Progress: The Power of Social and Emotional Skills の翻訳書である『社会情動的スキル』(明石書店)の副題です。英語のサブタイトルである Social and Emotional Skills が「社会情動的スキル」です。

 

 「社会情動的スキル」は日本ではあまり聞きなれない言葉ですが、数年前に注目された「非認知スキル」の言い換えです。同書のまえがきに「社会情動的スキル(あるいは非認知スキル)」(p.3)と書かれています。「社会情動的スキル」に対するものは「認知スキル」ですが、この二つのスキルは相互作用し、バランスよく身につけることが必要であると述べれています。

 

 翻訳書が『社会情動的スキル:学びに向かう力』になっていることから、新学習指導要領で特に強調されている「学力の3要素」のうち、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」の2要素が「認知スキル」に相当し、残りの要素である「学びに向かう力、人間性等」が「社会情動的スキル」に相当すると考えられます。同書(p.52)には、「社会情動的スキル」を「(a)一貫した思考・感情・行動のパターンに発現し、(b)フォーマルまたはインフォーマルな学習体験によって発達させることができ、(c)個人の一生を通じて社会経済的成果に重要な影響を与えるような個人の能力」とし、スキルの3つの分類、①目標の達成、②他者との協働、➂感情のコントール、に分けている。さらに、これらの分類の具体的なものとして、「忍耐力・自己抑制・目標への情熱」は「目標の達成」、「社交性・敬意・思いやり」は「他者との協力」、「自尊心・楽観性・自信」は「感情のコントール」にそれぞれ属するものとして挙げています

 

 「社会情動的スキル」は「性格スキル」として知られている(p.52)ことから、「ビッグ・ファイブ(Big Five)」の分類法に概ね即したものである(p.53)と説明されています。「ビッグ・ファイブ」は、人格を5つの基本要素に分ける分類法です。他の洋書を読んでると OCEAN で表記されていることがあり、それぞれの最初の文字を使っています。Open to experience 「経験への開放性」、Conscientiousness「誠実性」、Extroversion「外向性」、Agreeableness「情緒的安定」、Neuroticism「神経症的傾向」です。同書では、「神経症的傾向」を、Emotional Stability「情緒安定性」としてしてます。これら5うの分類に、さらに具体的な性格特性が続きます(外向性は、社交性、積極性、活発さ、など)。

 

 同書は、OCEDの加盟国が、それぞれの国においての「社会情動的スキル」の役割を調査、分析、調査したものを統合したものです。第3章「人生の成功を助けるスキル」では、「社会情動的スキル」の3つの領域である「目標の達成」「他者との協働」「感情のコントール」において、「誠実実性(信頼できる、忍耐強い、頼りになる)、社会性、情緒安定性が、人生の成功において特に重要であることが実証されている(p.96)、と説明しています。

 

 同書から言えることは、「学力の3要素」の「学びに向かう力」を具体的に考える上で、「社会情動的スキル」の3領域である「目標の達成」、「他者との協働」、「感情のコントール」と人格おける「誠実性」、「社会性」、「感情のコントール」がキーワードになります。これらのキーワードを踏まえ、それらを培う教育が、「学びに向かう力」につながるものと考えます。


(参考文献)

経済協力開発機構(OECD)[編著]ベネッセ教育総合研究所[企画・製作]武藤隆/秋田喜代美[監訳]荒巻美佐子/都村聞人/木村治生/高岡純子/真田美恵子/持田聖子[訳](2018)『社会情動的スキル:学びに向かう力』 明石書店