「英語力+α」-「英語力+ 情報(統合)力」-

 2020年度から高校生に対して導入予定の英語「4技能」検定は、高校現場に大きな影響を及ぼすものと予想されます。英語で読む、書く、聞く、話す、の4技能(skills)をバランスよく習得することが求められるとの声をよく耳にしますが、私個人の英語力で言えば、それらのバランスは決して良いものではありません。通勤時間を含め、ほぼ毎日、洋書を読んでいるので、読む技能は安定していると思うのですが、英語を書いたり、聞いたり、話したりすることは、読むことに比べ、圧倒的に少ない状況です。そのため、私の英語4技能のバランスは良くありません。

 

 私自身のことは置いておき、現在担当している高校1年生に対しての英語授業は、「one sentence 4技能」と名付けた実践を行っています。one sentence 、すなわち、一文の英語を、完璧に読み、書き、聞き、話すことが出来るようなトレーニングです。これは、随分昔から英語教育で実践されてきた、「例文」を身につけるトレーニングを、プロジェクターやデジタル教科書などのICTを用いて、より活動的に行うものです。ICTを活用することにより、プリントやCDを用いて行われてきた「英語例文」のマスターが、4技能のどれにおいても可能になります。この実践の詳細は、このホームページの科目別レポート(英語科)にリンクを貼っています『Eトレ(English Training)による英語の自動化を目指して(基礎英語編)」で実践報告として述べています。

 

 バランスよく英語4技能が身につけられるかの問題とは別に、「英語力をつけてどうするのか?」という問いがあります。英語そのものの習得について関心を持つだけでなく、それ以外の「+α」についても関心を持たせる問いかけです。「英語力+α」とした場合、高校等の学校教育でよく見受けられるのは、「英語力+思考力」です。確かに、学習指導要領の改訂に向け、「知識・技能」のみならず「思考力・判断力・表現力」に重点を置く教育の実践が求められるようになっている状況を鑑みると、思考力を +α とするのは、説得力があります。決してそれを否定するのではないのですが、私は「思考力」の代わりに「情報力」それも「情報統合力」に置き換えたいと考えています。

 

 「情報力」を挙げた理由は、日本語に比べ、英語での情報量の圧倒的な多さです。英語使用者の数言うまでもなく、インターネットを含む学術研究面やその他の分野での英語での情報量は、日本語とは比較になりません。情報の内容には良し悪しがありますが、今後のAI/IoTが牽引する社会(ソサエティ5.0)において良質な情報をどれだけ早く取ることができるかは、国家や企業のみならず個人においても、競争に勝ち、生き残るために不可欠です。良質な情報を手に入れるための英語力を育成する授業が、「英語力+情報力」です。

 

 さらに加えて「情報統合力」というのは、洋書を読んでいて気付いた概念です。次の英文からヒントを得ました。

 

'Decision-makers need information about changing consumer needs and technology. Such information is not always available; or if it is available, decision-makers must collect information, analyze it, synthesize it, and act on it inside the firm.' (Dynamic Capabilities  p.75)

「(企業の)意思決定者は、変わりゆく消費者のニーズおよび科学技術についての情報を必要とする。そのような情報は必ずしも手に入るとは限らない。たとえ、入手できたとしても、企業内で、意思決定者は情報を集め、分析し、統合し、そしてそれを基に行動ししなければならない。」(拙訳)

 

 それまでの私が理解していた情報の流れは、情報を収集、分析、編集するというものでした。「情報処理」「情報編集」という概念が、情報に関しての理解でした。教育界において、教育改革実践家である藤原和博氏が「情報編集力」の大切さを発言されています。私は「情報編集力」の大切さに共感していたため、それだけ一層「情報編集」と「情報統合」に違いについて考えていました。その違いが見えたのが、別の洋書でよく似た表現を見かけたからです。

 

'According to E.O. Wilson, "We are drowning in information, while starving for wisdom.  The world henceforth will be run by synthesizers, people able to put together the right information at the right time, think critically about it, and make important choices wisely." (Four- Dimensional Education p.63)

「E.O.ウィルソン氏によれば、『我々は智恵を求めながらも、情報の海で溺れている。世界は今後、統合者らによって動いていくだろう。統合者というのは、適時に適切な情報を組み合わせ、批判的に考え、賢明に重要な選択をすることができる人たちのことである。』(拙訳)

 

 引用されている英文の本をたまたま持っていたので、さらに確認すると、その直前の文章は以下のようになっていました。

'Thanks to science and technology, access to factual knowledge of all kinds is rising exponentially while dropping in unit cost.  It is destined to become global and democratic.  Soon it will be available everywhere on television and computer screens.  What then?  The answer is clear: synthesis.' (Consilience  p.295)

「科学技術のおかけで、あらゆる種類の事実に関する知識の入手方法は、各段に増加し、一方でそれにかかる費用は激減している。それは、グローバルな規模でそれも全般的に人々に行き渡るであろう。いかなるところで、テレビ画面上やコンピュータ画面上でそのような情報を得ることができるようになるにはそれほど時間がかからないであろう。そうなると、どうなるのか?答えは明らかである。それは「統合」である。」(拙訳)

 

 英語使用者にとって、おそらく、弁証法(dialectic)である「正」(thesis)「反」(antithesis)「合」(synthesis)が情報を扱う時のキーワードになっているのでしょう。情報を集める際には、「正」の情報や「反」の情報を集め、それらを分析し、「合」することで、より高いレベルの情報に止揚・アウフヘーベンさせる意味合いが込められていると思われます。この過程には、当然、思考力は必須となります。

 

 このような考えから、「情報統合力」を「+α」として、「英語力+情報(統合)力」を英語授業の目標に据えることは可能になります。その具体的な実践はこれからになりますが、21世紀で生き抜く上で必要なスキルとなるはずです。


(参考文献)

Edwa\ard O. Wilson (1998)  Consilience: the unity of knowledge  Vintage

David J. Teece (2009)  Dynamic Capabilites & strategic management: organzing for Innovation and Growth  Oxford University Press

Charles Fadel, Maya Bialik & Bernie Trilling (2015)   Four-Dimentional Education: the competecies learners need to succeed  Center for Curriculum Redesign