'Capitalism without capital'から-intangibleをキーワードとして-

 前回は Big Data が市場に影響を及ぼし「データ資本主義」(Data Capitalism)に移行していると主張している本 'Reinventing Captitalism in the age of Big Data' を紹介しましたが、今回は 'Capitalism without capital'「資本のない資本主義」というタイトルの洋書を紹介して、さらに資本主義の中身が変容していることについて考えてみます。

 

 「資本のない資本主義」のサブタイトルは、the rise of the intangible economy となっています。intangbile (形容詞)とは、「触れることのできない;実体のない」「(資産などが)無形の」(研究社 新英和中辞典)という意味です。それ故、サブタイトルの日本語訳は、「実体のない[無形の]経済の台頭」(拙訳)となります。intangible の反対語は tangible です。「実体のある」という意味になるので、経済において tangible investment(有形の投資)と言えば、例えば、新しい建物を建てることなど、物理的なものに対して投資を行うことを言います(p.3)。それに対し intangible investment(無形の投資)とは、ソフトウェア、R&D(研究開発)、製品デザイン、市場調査、ブランドの価値、訓練による人的資源などへの投資などを指します(p.22))。それを行っている企業で言えば、Microsoft社があげれます。ちなみに、2006年のMicfrosoft社の市場価格は、約$250bn(2,500億米ドル)で、工場や施設などの伝統的な資産は、$3bn (300憶米ドル)であり、市場価格では1%に過ぎません。資産の観点から言えば、capitalism without capital 「資本のない資本主義」です(p.4-5)。

 

 ほとんど全ての先進国において、「無形の投資」の重要性が増し、中には「有形の投資」を上回る国家もあります(p.7)。投資がいかなる経済の機能に対して中心となっています(p.15)。「無形の投資」により成長する経済が、「無形の経済」です。21世紀において、そのタイプの経済が台頭しています。これには、経済活動において製造業からサービス産業へのバランスの変化、グローバル化、市場の自由化の増大、ITや経営技術の発展など理由があげれます(p.35)。

 

 「無形の投資」には、4つの特徴(4S)があります。それらは、① Scalablity(規模の大きさ)②Sunkenness(sunk cost 「埋没費用(ひとたび使えば、回収不可能なコスト)」の考え)③ Spillover(過剰的に一気に拡大)④ Synergies(協働、組み合わせ)です(p.60-61)。④の例は、シェアリングエコノミーの代表格の Uber や AirBnB です。それらの企業は、「IT(情報技術)」と「人の情報や繋がり」を組み合わせたものです(p.82)。

 

 上記以外の「無形の投資」により発展した企業に、Google, Apple, Facebook, Amazon があります。平成になってからの時代を振り返ってみると、ここで名前を挙げた企業の台頭と活躍が目立ちます。30年前の日本は「平成バブル期」で、多数の日本企業が世界中を席巻し、その存在が知られていました。この30年の間で、世界の経済が大きく変容し、それにうまく対応できた企業が現在に至っています。その変容を理解するのに、intangibles(名詞)「無形のもの」-すなわち、innovation(刷新)を生むアイデアやビジョン、デザイン力、市場調査、ブランドの価値、ソフトウェア、人材育成、プラットフォーム構築といったもの-の理解やそれの実行力が要因であったことは否めません。

 

 これからは ITやIoT が牽引する社会(Society 5.0)において、「無形の投資」や「無形の経済」の価値が一層高まるでしょう。このような背景での人材育成、延いては、学校教育の在り方について早急に考えていかなければならないと思います。

 


(参考文献)

Hanskel, J & Westlake, S (2018). Capitalism without capital: The rise of the intangible economy  Princeton University Press