読書と問学- 'How to read a book' から-

 How to read a book (本の読み方)というタイトルの本は、1940年に出版され、1972年に改訂版が出された後も、今日まで長年に渡って読み継がれている本です。私が持っている本は、2014年9月に印刷されたものです。

 

 この本の中身は、本の読み方には4つのレベルがあることを紹介しています。レベル1は、elementary reading (初級の読書)で、基本的な読み方がでできるレベルのことです。elementary school (小学校)で習うレベルであるところから elementary という言葉を用いているそうです。

 

 レベル2は、inspectional reading (点検・精査の読書)を指し、限られた時間内ですばやく本が何かについて書いてあるかを読むことができるレベルです。これは、skimming systematically (系統だってすばやく読む方法)のことです。

 

 レベル3は、anaytical reading (分析的読書)であり、できる限り時間をかけて完璧な読書をおこなうレベルです。それは、理解するために行う読書です。

 

 レベル4は、syntopical reading (シントピカル読書)で、それは、ひとつの話題について複数の本を読むレベルです。このレベルでは、複数の本を読み、比較するだけでなく、いづれの本にも書かれていないような分析を構築することを出来る読書です。これは、読書の中で最も活動的で努力を要する読み方になります。

 

 日本においては、最後のレベル4は知られていることはほとんどないかと思われます。レベル3の分析的読書においてさえ、かなり困難であり、2020年の大学入試改革においては、このレベルができれば最難関校に入学できる学力となるでしょう。一方、『A.I. vs 教科書が読めない子供たち』(新井紀子著 東洋経済新報社)がベストセラーなり、初級の読書レベルが危ういと思われる生徒が多数いることが問題視されるようになっています。

 

 私自身はレベル3は心掛けていますが、レベル4にはほど遠い読書を行っています。しかし、How to read a book には、レベル4に向かわせるのに不可欠ものがあり、それは「読書中に問うことである」'Ask questions while you read - questions that you yourself must try to answer in the course of reading' (p.46)と書いています。4つの基本的な問いがあります。

 

1.  What is the book about as a whole? 「全体としてその本は何について書かれているのか?」

2.  What is being said in detail, and how? 「詳細に書かれているのは何であり、そしてそれはどのように書かれているのか?」

3.  Is the book true, in whole or part? 「その本は全体的に本当のことが書かれているのか?それとも一部しか書かれていないのか?」

4.  What of it? 「その本について、自分にとって何であるのか?(どんな意義があるのか)」

 

 私は、特に三番目の問いが重要であると思います。本に対して、最初から疑ってかかる読み方は、私を含め日本の読者には、少ないかと思われます。三番目の問いこそが、「分析的読書」に導き、さらに「シントピカル読書」へと繋がるものと考えます。

 

 How to read a book では、これらの問いを知るだけでなく、これらの問いかけを行う「習慣」を身につける必要があると述べています。問学の習慣を持つ人であれば、4つの問いを読書に取り入れ、高次元の読書レベルに到達することが、他の人と比べて、出来る可能性が高くなります。

 

 同書では、

'We have defined active reading as the asking of questions, and we have indicated what questions must be asked of any book, and how those questions must be answered in different ways for different kinds of books.' (p.328)

能動的読書の定義は、問うこととしてきた。そして、いかなる本についてどのような問いを立てなければならないかを示し、本が異なれば、問いの答え方も異なることを示してきた。」(拙訳)

 

 上記の引用から、能動的読書、すなわち、同書で紹介されているレベルの読書は、問いであると言っています。その問いから得られる解を、知識、スキル、あるいは、智恵として得るのが学びであり、それが問学です。大胆に言えば、能動的読書は、問学であるということです。

 


(参考文献)

Adler, M. & Doren, C. V. (2014) How to read a book: the classic guide to intelligent reading.  Touchstone.