前回は「深い学び」を deep(er) learning とし、-er をつけることにより、参照点を設けることによって何よりも深いかを明確になることと、さらに「問い」を用いて「より深い」学びに繋がることを述べました。今回は、「深い」deep と「浅い」shallow の言葉を対比して、学びにおいてそれらをもたらすものを紹介します。
Nicholas Carr による The Shallows という本があります。The Shallows の副題が、What the Internet is doing to our brains (インターネットは我々の脳に何をしているのか)になっています。Carr は米国人の著述家で、インターネットを含むテクノロジーと人の関係を独自の洞察力をもって書いている方です。その著者がインターネットを使っていると、あることに気づいたそうです。それは、思考が浅くなっているということです。例えば、ネットである事項を調べていると、ハイパーリンクで別のことをすぐにアクセスすることができます。ハイパーリンクで次々と色々な情報を追っていくと、最初に触れていた情報の内容とは全く関係のない情報に触れることになってしまうことがあります。その結果、最初に調べていた事項のことについては、そこで思考が停止します。ハイパーリンクで次々に他の情報にいかなければ、当初の事項についてより時間をかけ、より深く理解や考えが進んでいたことでしょう。そのことを Carr は気づき、まさに「浅い」の意味を表す shallow の単語を本のタイトルに用いました。この本はピュリッツァー賞 Pulitzer Prize の最終候補にあがり、ベストセラーになりました。
この事例から、私は「深さ」と「浅さ」の違いは、ある事項についてより時間をかけるかどうかによると考えるようになりました。例えば、2時間を使い、ひとつの事項を取り組む場合と、全く関係のない事項を複数取り組む場合、当然、深さに違いが出てきます。2時間を1で割る方が、2,3,4,5,...で割るよりも、数字が大きくなるので、それが「深さ」と「浅さ」の違いとなります。割る分母の数字が大きくなるほど、ひとつにかける時間が分散されるので、それだけ浅くなります。
インターネットは、この分母をより大きくし、時間を分散させる特徴があります。ハイパーリンク以外にも、メールやSNSのやり取りも、浅さに寄与します。例えば、学習や仕事をしている最中に、メールが入り、それを読み返事を書いたり、Line のメッセージを読んだり、返事したりすれば、学習や仕事が中断されます。それは、上記の例で言えば、分母が増えることと同じです。当然、メールや Line で使った時間をかけなければ、それまでの学習や仕事を中断することなく進めることができたでしょう。このことが、「深さ」と「浅さ」の違いです。言い換えれば、一つことに集中力を維持するかしないかになります。この場合の集中力の英語は、concentration ではなく、 focused, sustained attention という表現を私はよく見かけます。
学習や仕事を深めるために「集中力を維持する」と言うのは簡単ですが、Society 5.0 と呼ばれる AI と IoT が牽引する社会では、情報があふれ、色々な情報に振り回されがちになります。このような社会では、「深く」なることは非常に困難です。それは「深い学び」においても当てはまります。この困難を克服するヒントは、今教育界で話題の「非認知能力」(non-cognitve skills)にあります。
(参考文献)
Nicholas Carr(2010). The Shallows: What the Internet is doing to our brains. Norton