大学入試英語問題-出典を知らせる意義-

 ちょうど2週間前に大学センター試験が終わり、いよいよ国公立大学の出願時期も大詰めを迎えています。出願者は来月末に行われる2次試験に向けての対策学習に集中にし、当日の試験に最高の実力が発揮するように臨みます。英語の試験に関して言えば、ネット上で閲覧できる新聞や雑誌の記事だけでなく、近年で話題になった洋書から出題されています。10年くらい前であれば、出典はなかなか分からなかったのですが、現在はネットで出題の英文を入力し検索すると、出典が何であるかが分かることが多いです。

 

 出典から言えることは、高校生が普段読んでいるとは考えにくい本や記事の英文が取り上げられています。時折、私が以前が読んだことがある洋書から出題されていることがあり、ここ10年くらいの神戸大学の出典で言えば、次のものがあります。The Willpower Instinct (2016年第1問)、Not For Profit(2015年第1問)、Everything is obvious(2014年第1問)、Outliers(2014年第2問)、The Upside of Irrationality(2012年第1問)、The Japanese Today(2009年第1問)、That's what I meant(2008年第1問)などです。2009年と2008年に出題された2冊は、最近ものでありませんが、2010年代の5冊はここ10年くらいで出版されています。それらを読んだ理由ははっきりと覚えていないのですが、話題になった本を読むことが多いのでそれが切っ掛けで読んだ本だと思います。ただ話題となっていたとしても、対象読者は高校生ではないので、平均的な高校生は翻訳本でも読むことはないでしょう。

 

 これらの出典から言えることは、大学入試の英語問題は、受験生にとっては未知な内容を扱っている英文が多いということです。英語問題の中には、日本語訳を読んでも理解しがたいものもあります。英文和訳問題においてはテクニックを用いて、ある程度、日本語に変換することができることがありますが、それはあくまでも部分点を得るためです。それは、英文を深く理解し、批判的に読むものではありません。理解するにためには、ある程度の背景知識やそれに関する語彙を持ち合わせていなければなりません。私は原書を紹介し、出題されている部分を見せ、出題の背景知識や原書についての私の概観を述べます。

 

 例えば、2016年度出題の The Willpower instinct では、willpower(意志の力)が身体の筋肉ように(like a muscle)鍛えられるものであり、これは練習や訓練により可能であることを知っているかどうかで、問題文を読む速さや理解の深さが違ってきます。~ is  like a muscle. という表現が見受けられ、~の主語に attention, mind, brain などの単語が同様に入り、固定的なものではなく可変的なものであることを伝えようすることを説明します。「可変的な」を示す単語として、adaptive, plastic, malleable などがあると説明を加えます。さらに、評論の英文では experiment(実験)を通した研究からの知見を引用することが多いことを述べ、その実験に必要な言葉を説明します。実験で何かの条件を加えるグループの対象を示す treatment と、何の条件を加えずに普段のままに扱うグループ対象を示す control です。それらの対照群を比較することによって実験の効果や成果があったのがを明らかにするのが通常の手順であると話します。この実験の手順を知っているかどうかで、英文でその箇所が出てきた時の対処が異なります。

 

 このような知識を持っているというは大学入学後も役立ちます。希望する大学に入学するか否かに関係なく、英語の大学入試問題に取り組むということは、大学入学後や社会人になった際に、触れてほしい世界への誘いの機会でもあります。4年後の大学卒業時には、これらの原書をすらすらと読み、英語で情報を取り、多様な考え方や知識を得て、自分の考えを構築して発信できるようになってもらいと願います。大学入試問題を通して、生徒に未知の世界を伝えることが、高校英語教師の役割の一つであると、私は考えています。