原書を読む意義-『プラグマティズム』と plastic-

 学力や能力を、「固定されたもの」ではなく、「変わるもの」であると見なすことは、当人の努力を生むきっかけになります。その「変わるもの」の英単語が plastic です。脳科学に関する著書の中で、plastic の同様な意味の言い換えとして、malleable, adaptive, などが用いられています。plastic 関連の単語を知っているとアメリカの思想・行動哲学を表す「プラグマティズム」の特徴が理解することが出来ます。「プラグマティズム」は「実用主義」「実際主義」と訳されることがありますが、岩波文庫は『プラグマティズム』(W. ジェイムズ著 桝田啓三郎訳)となっています。今回は、その訳本と原書 'Pragmatism' の plastic が用いられている箇所を紹介します。plastic のイメージ(固定ではなく変化するもの)をつかめていれば、pragmatism の本質を理解するのが難しくはないことがお分かりいただけると思います。

 

 'To a cetain degree, therefore, everything here is plasitc.' (p.44 From the Lecture II 'What pragamtism means')

「だから、限界はあるにしても、この問題に関してはあらゆるものが思い思いに形成されてゆくのである。」(p.68 第二講「プラグマティズムの意味」)

 

  ' Now Dewey and Schiller proceed to generalize this observation and to apply it to the most ancient parts of truth.  They also once were plastic.' (p.45)

「さてデューイあよび白―の真理はこの観察を一般化し、それを最も古い時代の真理に適用しようとする。それらの真理もかつて形成されたものであり、...」(p.71)

 

  'But how plastic even the oldest truths nevertheless really are has been vividly shown in our day by the transformation of logical and mathematical ideas, a transformation which seem even to be invading physics.' (p. 46)

「しかし、それほど旧い真理でも実は極めて柔軟性に富んでいるものである、ということは、こんにちでは、論理学的ならびに数学的諸観念の変化によって、いな、物理学さえも襲おうとしているかに見える変化によって、さまざまと示されている。」(p.p. 72-73)

 

 このように、原書の「プラグマティズムの意義」では、3ページで plastic が三回出てきます。それ以前では、'rationalism' (合理主義・合理論)やその対概念である 'empiricism'  (経験主義・経験論)が述べらています。rationalism に関して plastic の言い換えである melleable を用いて次のように書かれています。

 

  ' truth no longer melleable to human needs; truth incorrigible, in a word; such truth exists indeed superabundantly - or is supposed to exist by rationalistically minded thinkers' (p. 46)

「一言で言えば、矯正できない真理ーそういう真理はほんとうにありあまるほど存在しているーあいるは、存在しているものと、合理論的な心の思想家たちによって想像されている。」(p. 72)

 

 すなわち、rationalism (合理主義)や empricism (経験主義)では、真理は「固定されている」のに対し、pragmatism (実用主義)では、真理は固定されておらず、「変わるもの」であるいうことです。

 

    rationalsim, empricism  ≠  plastic

    pragmatism  =  plastic

 

 plastic は形容詞であり、物事の性質を表しています。それ故、pragmatism の性質は、plastic (変わるもの)であるという理解に辿り着きます。翻訳になると一つの単語に対する訳にバラツキがでてくるために、簡単にはキーワードを捉えにくくなります。原書を読む意義は、情報を得るだけでなく、英語でのキーワードを掴むこともできることです。そして、そのキーワードを用いて考えると、日本語だけで考えるよりも異なった発想を得ることが可能になるということです。

 

(注)上記以外にも plasitc や melebale が用いられている箇所があります。以下に紹介します。

 

  'the world is PLASTIC."  He adds that we can learn the limits of the plasticity only by trying, and that we ought to start as if it were wholly plastic,...' (p. 130)

「世界は可塑的である。」彼は更に付け加えて言う、われわれはただ試みることによってのみこの可塑性の限界を学ぶことができるのであって、われわれはまず世界が全く可塑的であるかのように見なして出発し、...」(p. 242)

 

 'The world stands really melleable, waiting to receive its final touches.' (p. 137)

「世界はじつに鍛えられるものとして存在し、われわれ人間によって最後のタッチが加えれるのを待っているのである。」(p. 257)


(参考文献)

William James (1907). Pragmatism. Scholar's choice

W.ジェイムズ著 桝田啓三郎訳 (1957) 『プラグマティズム』岩波文庫