サルマン・カーン氏が用いた「主体的」の英語

 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー別冊 2015年5月号(ダイアモンド社)は、「人材の未来、教育の未来」という題で特集を組んでいます。ビジネス雑誌なので、大前研一氏やイノベーション研究の第一人者であるクレイトン・クリステンセン教授(ハーバード大学)が登場しますが、そこにサルマン・カーン(Salman Khan)氏が登場します。カーン氏は、NPOカーンアカデミーを創設し、算数や数学を始めとする多岐に渡る教科の解説動画をネット上に配信し、世界中の人々に学習の機会を提供しています。

 

 カーン氏は、TEDトークにおいて、カーンアカデミーの動画を用いて「反転授業」を行っている学校の実践を述べ、反転授業の普及に貢献しました。『世界はひとつの教室』(ダイアモンド社)を著し、そこでも反転授業についても触れています。実は、ちょうど5年前(2012年)にMOOC(Massive Open Online Course)の特集をしているニューズウィーク日本版を読んでいる時に、「反転授業」という言葉を知りました。私自身も10年以上前に解説動画を作成、授業や補習で活用し、さらなる活用法を模索していたので、米国で注目されている「反転授業」にすぐに興味を持ち、記事で紹介されていた本を2冊、アマゾンでさっそく購入し読み終えました。その2冊とは、『世界はひとうの教室』の原書である、The One World Schoolhouse: Education Reimagined と前回(2017年11月19日)ブログで紹介した Flip Your Classroom: Reach Every Student in Every Class Every Day です。この2冊を読んで具体的な授業案を思いつき、2013年4月より勤務校で反転授業を実施することができました。

 

 私が反転授業を実施する上で影響を受けた著者であるカーン氏は、DIAMOND別冊でのインタビューで次にように語っています。

  

『HBR(Harvard Business Review):今日、職業人として成功するために、皆が主に学ぶべきことは何でしょうか。

 カーン:具体的に何を学ぶかというより、主体的に学ぶ姿勢を身につけるべきですね。従来の教育制度の下では、学ぶというのは受け身の行為ですから。』

 

 カーン氏が「主体的」という言葉使っているので、実際は英語でどのように表現しているのかを知りたくて、原文("LIFE'S WORK: Salman Khan," HBR, January-February 2014, © 2014 Harvard Business School Publishing Corporation)に当たってみました。ネット上で入手でき、以下がその原文です。

 

  "What are the key concepts students should understand in order to be successful in today's workplace?"

   "The one meta-level thing is to take agency over your own learning.  In the traditinal acadmic model, you're passive."

 

  agency という単語が使われています。agency は多義語であり、様々な意味を有します。Oxford新英英辞典では、'action or intervention producing a particular effect'(特別な効果・影響を生みだす行動、あるいは介在)がここでの意味であると思います。take action 「行動する」という慣用句があり、それに近いです。私が考える「主体性」(proactivity)の構成要素である control に近いようにも思えます。

 

 ネットで検索すると、Your Sense of Agency: Are You In Control of Your Life? 「あなたのAgency感:人生をcontrolしていますか?」(試訳) というタイトルの記事ありました。(https://www.psychologytoday.com/blog/the-white-knight-syndrome/201009/your-sense-agency-are-you-in-control-your-life)  Psychology Today という心理学に関する雑誌のサイトでの記事です。その冒頭の文章は以下の通りです。

 

 "Your ability to take action, be effective, influence your own life, and assume responsibility for your behavior are important elements in what you bring to a relationship. This sense of agency is essential for you to feel in control of your life: to believe in your capacity to influence your own thoughts and behavior, and have faith in your ability to handle a wide range of tasks or situations."

 

 「あなたが、行動を起こし、かつ有能であり、自らの人生に影響を与え、自分の行動に責任を負うことが出来ることは、ある関係を築くことにおいて重要な要素です。この agency の感覚は、あなたが自分の人生を control しているという感情に不可欠です。つまり、自分の考えや行動に影響を与えることが出来るということを信じ、広範囲の課題や状況を対処する能力に自信をもつことです。」(試訳)

 

 agency と control を日本語に訳していませんが、これらの単語が密接な関係にあるように思えます。上記の文章では、action, agency, control の単語が現れています。

 

 take action   take agency   take control  

 

 それぞれは、微妙に意味は異なると思われますが、大雑把に言って同じことを示していると理解しても良いかと思います。