主体的(proactive)と反応的(reactive)-洋書から-

 先月は「主体的な学び」について7回にわたり述べました。「主体的」という言葉を、英語の proactive という言葉で捉え、それの対抗概念として「反応的」(reactive)を据え、さらに「不活発」(inactive)を加えることにより、「主体的」を相対的に理解・解釈しました。

 

 先日、Circles of compensation という本を読みました。副タイトルは Economic Growth and the Globalization of Japan となっており、戦後から平成初期までの日本の経済成長とバブル経済崩壊後の日本がグローバル化にどのように対応しているかを分析した本です。タイトルの Circles of compensations は、直訳は「補償の円陣」で、分かりづらい訳になります。要点は、日本の基幹産業や分野(金融、運輸、農業、情報通信など)において、ある団体あるいは組織が利益や利権を取り囲み、その輪からはみ出る者に代償を押し付ける結果になることを言い表しています。平成初期のバブル経済崩壊まではこのシステムはうまく機能していたのですが、崩壊後は世界的には冷戦終結が重なり、グローバル化やIT化が進み、それへの対応がシンガポールなどの諸国比べ遅れることなり、現在の日本の状況に陥っていると分析しています。

 

 この本を読んでいる時に、グローバル化する世界に対応する日本の行動を proactive と reactive で表現し、それが頻繁に用いられていました。その箇所を以下に紹介します。

 

  "Precisely when Japan needed to become more innovative and proactive, it grew more reactive, conventional, defensive, and risk averse, with little domestic objection to these tendencies." (p.4)

「まさに、日本がより一層革新的で主体的になる必要がある時、これらの傾向(注:グローバル化が進む世界で国内の利権にこだわる偏狭性など)に反対することは国内では見られない状態の中で、一層反応的で独創的な欠き、守勢的でリスクを避けるようになった。」(試訳)

 

 "Japan, as a 'reactive state,' has been relatively quick to respond, in rhetorical and in national-policy terms, to focused external pressure, or gaiatsu, that aligns with underlying cleavages in the domestic Japanese political economy." (p.9)

「日本は、『反応的国家』として、国内の政治経済における亀裂をもたらしかねない外圧に、すばやく反応してきた。」(試訳)

 

  "Yet they (telecommunication authorities) reduced fees much later than in Korea, putting Japan at a competitive disadvantage with its proactive neighbor in the Internet area." (p.148)

「しかし、彼ら(通信当局)は通信使用料を下げるのが、韓国よりもはるかに遅かった。それにより、日本は、インターネット分野において、主体的な近隣国(韓国)との競争において不利な状況に置かれたのである。」(試訳)

 

  " To test the hypothesis that the circles of compensation inhibit the willingness of Japanese firms to be proactive in the broader world, ..." (p.156)

「日本の企業が世界で主体的になる意欲を阻害するのが(本のタイトルである)補償の円陣だという仮説検証するために、...」(試訳)

 

  "This research suggests that foreign pressure is creating some momentum for change, and it does offer hope for a 'reactive' Japanese response under certain limited circumstances." (p.221)

「本研究が示したのは、外圧により変化への幾ばくか勢いが生まれており、それが限られた状況下において『反応的な』日本の対応に望みを与えていることである。」(試訳)

 

  "Proactive national leadership is crucial." (p.222: 結論の部分)

主体的な国家のリーダーシップがきわめて重要である。」(試訳)

 

 「主体的な学び」においては、学習者や教員が「主体的」になることを求められることを述べましたが、日本の国自体においても、「主体的」になるように求められているように感じます。


(参考文献)

Kent E. Calder (2016).  Circles of Compensation: Economic Growth and the Globalization of Japan. Stanford University Press