主体的な学び(その5)-主体的学習者への変容ー

 左の画像は、前々回のブログで紹介したものです。反転授業の実践が最もうまくいくと考えらえる学習者と教師の組み合わせは、右上に位置する「主体的な」学習者(PL)と教師(PE)です。この両者が行う学びが、「主体的な学び」となります。

 

 これに対し、右中央に位置する「反応的学習者」(RL)と「主体的教師」(PE)での学びでは、表面上、学習者は活発に教室で学習しているように見受けられることがあります。しかし、何等かの教師による指示や影響のみで、それに「反応して」学習が行われている場合、自律した学習者であるとは言うことができないでしょう。いかにして「反応的学習者」(RL)を「主体的学習者」(PE)に変容していくかが、大きな課題として残ります。この課題を解決する方法の一つとして私が考えるのが、「希望と4 e-cycle 」です。

 

 希望に関しては、拙書『反転授業が変える教育の未来』で述べた部分を引用します。

 

  「希望を持つことの大切さに関して次の研究があります。マサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・V・バナジー(Abhijit V. Banerjee)教授とエスター・デュフロ(Esther Duflo)教授による貧困の研究では、貧困国の人々が海外からの援助を得て自立をするように促してもうまくいかないことがあるそうです。自立のためのお金を与えても、刹那的に美味しい食べ物などに浪費していまい、中・長期的に自立するためのお金の使い方をしないので貧困から抜け出せない状態のままでいると。理由として、将来に対する希望がないためであると教授らは指摘しています。(pp.36-37)」

 

   授業においては、希望は将来のビジョン vision であると考えています。学習することが、将来、どのようなことにつながるのかという理解とも言えます。学習することの意味を理解できれば、学習という生涯にわたるマラソンのスタートラインに立つことができます。希望、あるいは将来のビジョン、あるいは、学習する意味の理解を持って、4 e-cycle の体験をすることを通じて、学習への主体性を得るようになります。

 

 4 e-cycle とは、eから始まる4つの単語からなるもで、それらの言葉の体験を経て「反応的学習者」(RL)から「主体的学習者」(PL)に変容するものと考えます。それらの単語は、encouragement「励まし」、engagement「関与」、empowerment「力をつける」、enlightenment「開眼」です。これら4つを連鎖的に体験して、何度も繰り返すことにより、徐々に「反応的な状態」から「主体的な状態」へと変容と遂げることが狙いです。

 

 まず初めに、教師から学習者への encouragement「励まし」から始まります。それは言い換えると、教師による学習への誘いです。特に、学習に対して「自己効力感」self-efficacy が低い学習者に対しては、教師からの「学習すれば、できるようになる」という励ましは必要になると思われます。その際には、教師の言葉が表面上のものではなく、どれだけ心の深いところから発せられているかが問われます。

 

 次は、学習に対して engagement 「関与」している状態です。アクティブ・ラーニング等においても「主体的な学習」の要素として挙げられます。ちなみに、反転授業の先駆者である Jonathan Bergmann氏らが出版した Flipped Learning 「反転学習」のサブタイトルは、Gateway to student engagement となっており、その翻訳書は、「生徒の主体的参加への入り口」となっています。

 

 学習に関与すると、学習成果が出てきます。それを、empowerment「力をつけた」状態であるとします。学習に関わっていても、何等かの「できる感」や「わかった感」が伴わなければ、学習の継続は困難になります。学習を継続するには、学習者自らが「知らなかったことを知る」ことや「出来なかったことが出来る」ようになることによって成長することが欠かせません。engagement の結果が、empowerment につながる必要があります。

 

 最後に、学習成果により、生徒の学習に対する「自己効力感」が高まり、学習を行えば力をつけることができるという enlightenment「開眼」に至る状態です。この状態により、さらなる学習動機に繋がることや、あるいは、知的好奇心が芽生え、次に学習目標を持つようになります。これが、次の engagement に繋がり(時には、encouragement が必要になるかもしれません)、そして、empowerment, enlightenment, へと、せん状のサイクルとして高く向上していく結果、最終的には、「主体的な学習者」に変容を遂げるものです。

 

 まとめると、希望、将来のビジョン、あるいは、学習の意味理解をもって、4 e-cycle という、encouragement → engagement → empowerment → enlightenment、さらに(encouragement) → engament →..... と続く螺旋状のサイクルを経て、「反応的学習者」(RL)から「主体的な学習者」(PL)になるとする考えであり方法でもあります。主体的な学習者」への変容により、「主体的な学び」がもたらされ、反転授業が最もうまく実践されます。

 

 次回は、反転授業が普及するカギについて述べます。