スキル(Skills)論(その7)-100年人生とスキル-

 

 

 

 昨年出版され、大変話題になった `The 100-year life` という本があります。著者 Linda Gratton氏は、ロンドン大学の経営大学院(ロンドン・ビジネス・スクール)の教授を務め、2012年には `The Shift`  という本を著し、近未来の職業が大きく変容することを指摘し、その変化(shift)への対応する方法を著しました。その本から得て思いついたイメージが上図です。拙書「反転授業が変える教育の未来」でも書きましたが、T字型の学びが必要であると意味です。縦棒が、「自律・自立」で、自分自身を鍛える部分に対し、横棒が「協働」で他者と繋がる部分です。

 

 前書が仕事の質の変化にどうするべきかを述べたことに対して、最新刊では、長寿により寿命が100年を越えることが予想される中で、人生の過ごし方が大きく変わることを述べています。20世紀の人生設計は、生後は「教育」→「仕事(就職)」→「定年退職(老後)」の3段階を経て死に至るというものでした。退職する年齢(60歳~65歳)から、寿命(80歳~85歳くらい)まで、おおよそ20年から25年間を老後を過しているのが現状です。

 

 先進諸国では、医療の発達や衛生状況が改善されることで、この1世紀の間で寿命がおおよそ30年延びてきました。しかも、今後も寿命が延びることが予想され、同書によると今日の新生児は5割以上の確率で100年以上生きることが予想されています(p.1)。

 

 このような100年を生きることが前提となる時代では、これまでの「教育→仕事(就職)→定年退職(老後)」の人生サイクルが通用しなくなります。理由は、65歳で定年になってからの人生が長く、それを支える年金制度を維持することが不可能になります。年金制度を含めた社会保障制度の維持は難しくなるために、国家運営のあり方や市民の生き方を根底から考え直す必要に直面します。

 

 著者は、100年を越えるような長い人生において、これまでの単線の人生経路ではなく、一つの仕事に就き続けるのではなく、 multiple stages (転職、充電期間、再教育などの「様々な複数の人生の段階」)を経ながら、人生を送るようになると述べています。このような人生にをおける財産は、金銭などの有形財産(tangible assets)だけでなく、人とのつながりを含む無形財産(intangible assets)が、大きな役割を果たすようになると、述べています。後者の無形財産には、知識やスキルが入ります。しかし、AI/IoTやグローバル化の進展などによる変化の激しい時代において、知識やスキルは、仕事を持つ前の「教育」を受けた期間で習得したものが一生通用することはありません。変化する時代に求められる知識やスキルを習得する、すなわちスキルアップは必須の課題です。ここで「問学」がその習得に大きく貢献します。

 

 これからの時代は、知識やスキルの向上を図りながら、キャリアアップの必要性は、日本においても語られています。この時代には、生涯に渡ってより高度な知識やスキルを習得にするにあたって、ICT(情報コミュニケーション技術)が役立ちます。Flipped Classroom を「反転授業」を訳し日本に紹介した、東京大学の山内祐平教授は、75歳前後まで働くことを想定し、フォーマル学習環境とインフォーマル学習環境の望ましい組み合わせたモデルを提示しています。

 

すなわち、

①(6歳~22歳) 現在の6歳までの「幼児教育」18までの小学校・中学校・高校の「初等中等教育」、そして22歳までの大学などの「高等教育」を「生涯学習者としての基盤形成」時期とし、この期間を「フォーマル学習環境」で行なっています。

 

②(22歳~40歳)22歳くらいから40歳くらいまでを第1の職業期間とし「キャリア1」と捉えます。22際までに学んだ知識やスキルを活かしながら、仕事で経験を積んでいくのですが、40歳くらいでもう一度時代に合わせた「学び直し」の時期を単年か数年に渡って「フォーマル学習環境」を行います。

 

③(40歳~58歳)その後は、40歳くらいから58歳くらいまでの仕事を「キャリア2」とし、50代の後半で再び「学び直し」を「フォーマル学習環境」で行ないスキルアップします。

 

④(58歳~75歳)さらにその後の58歳くらいから75歳くらいまでが、最後の職業期間にあたる「キャリア3」です。

 

 今まではそれほど重要視されてこなかった②~④の間で、「学び直し」期間を設け、スキルアップを図る一方、ICTを利用して、絶えず「オンライン学習による知識のアップデートと学習共同体への参画」をしながら、時代や社会に対応した知識とスキルの習得を続ける「生涯学習者」として人生を送ることが求めれてきます。

 

 先日のブログで紹介しました Thomas Friedmanの最新刊で、「彼女(著者の娘)たちにとっての生涯学習は、無くてはならないになっている。それは、大学で学んだスキルで就いた仕事以外に仕事をするために必要であるからだ。」(Life-long learning for them is a necessity for every job thereafter.) ということを述べています(p.204)。生涯学習は、これからの時代には欠かすことができない行動であり、それを十分になすために「問学」が寄与すると考えます。

 


(参考文献)

Linda Gratton & Andrew Scott (2016). The 100-year Life: living and working in an age of longevity Bloomsbury

 

山内祐平(2017) 「ICTメディアと授業・学習環境」『岩波講座 教育 変革への展望5 学びとカリキュラム』 岩波書店