スキル(Skills)論(その3)-「~力」と 'Skills'-

 前回のブログでは、日本語の能力は英語では ‘Skills’ と言い表すことができることを述べました。さらに、日本語で「スキル」と言うと、技能でも「高い」「低い」ではなく、何か「特殊な」意味合いを持ち、英語の ‘Skills’ ほど、一般的用いられることがないように思われます。

 

 日本語で「能力」と同等あるいはそれ以上に頻繁に見かける表現は「力」です。例えば、最近よく言われる力に「コミュニケーション力」や「思考力」があります。私が教えている英語でも「英語力」という言葉があります。生徒に「英語力」を英語で何と言いますかと質問すると、’English power’ と答える生徒がいます。 ‘English power’ は、「英語という言語が持つ力(影響力)」の意味合いになります。「英語力」を「英語能力」とする場合、 ‘English language competence’ や ‘English proficiency’ などの英語表現があります。大学入試改革では、英語の「4技能」を測る試験の実施に向かっていますが、この「4技能」は ‘Four skills’ の和訳です。具体的には ‘reading, writing, speaking, and listening skills’ (読む・書く・話す・聞く)技能のことです。

 

 「コミュニケーション力」も英語で ‘communicative competence’ あるいは‘communicative skills’ と表現されます。 ‘Competence’は「能力」を意味します。これによく似た単語が ‘Competency’ です。これも「能力」の意味です。 OECD(経済協力開発機構)の提唱する21世紀型の能力は、 ‘Key ompetencies’ (キー・コンペテンシー)と呼ばれています。

 

 日本では文部科学省が「生きる力」を英語のサイト(初等中等教育の概観)で ‘zest for life’ と表現しています。 ‘zest’ は「熱意」という意味で、「生命への熱意」では「生きる力」の意味を伝えることは難しいと思われます。というのも、"The more of the less" という洋書を読んでいると、次の英文が出てきました。

 

    " My wife repected her grandmother's zest for life, her love for family, her passion for prayer, and her cmmitment to God." (p.106)

 

 試訳してみると「私の妻が尊敬していたのは、祖母の生きようとする強い意欲(生きる力?)、家族愛、祈りへの情熱、そして神への献身であった。」となりました。この文での zest for life を文部科学省は児童・生徒に求めているのでしょうか?

 

 一方、英語版文部科学省パンフレット(Overview of the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology)では「生きる力」を ‘competency (Ikiru chikara)’ (p.8)と言い表わしています。これは、OECDの 'key comptencies' と同様な視点で「生きる力」を示しているように感じます。

 

 海外に目を向け少し調べてみると、シンガポールの教育省が初等中等教育のカリキュラムの図の中心に ‘life skills’ を用いています。WHO(世界保健機関)でも ‘life skills’ を使っています。(下の画像を参照して下さい)

 

 このように、「〜力」を英語で表す場合、 ‘skills’ (技能・能力)で考えるとイメージし易くなります。さらに、その具体的な技能は何かを考えていくと「〜力」がより鮮明に理解できるようになると思われます。

 

(追記:2019年7月10日)

Wellbeing in the primary classroom を読んでいると、zest for life が使われている英文に出会いました。以下に紹介します。

 

'Research by Professor Barbara Fredricken and colleagues showed that loving-kindness meditations boosted positive emotions in participants, increased their zest for life, increased their sense of purpose, whilst reducing feelings of isolation.' (p.117)

「Barabara Fredricken教授と同僚らによる研究が示したのは、「優しさを大好きなる」ための瞑想は、その参加者において、疎外感を減少させる一方で、肯定的な感情を押し上げ、生きることに対するの熱意や使命感を向上させた、ことだった。」(拙訳)

 

瞑想によって zest for life が向上すると書かれているので、文科省が言いたい「生きる力」では、なさそうです。


(参考文献)

Joshua Becker (2016). The more of less: finding the life you want under everything you own. Water Brook

Adrian Bethune(2018).  Wellbeing in the Primary Classroom: A practical guide to teaching happiness   Bllomsbury

 

(参照サイト)

文部科学省の英語サイト

①初等中等教育の概観(2017年8月18日アクセス)は、

 

http://www.mext.go.jp/en/policy/education/elsec/title01/detail01/1373834.htm

 

②英語版文部科学省パンフレット Overview of the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (2017年8月18日アクセス)は、

 

http://www.mext.go.jp/en/about/pablication/index.htm

 

(画像)上がシンガポール教育省の life skills(同心円の中心)、下がWHOの life skills